2019年11月15日

「指輪」作・田畑稔(no.0147.2019.11.16)

 指が切断される事件が続いた。
 往来で突然、指を切られ指輪とともにどこかへ消えた。狙われたのは指輪が付けられた指だけだった。切られた当人は重大事故である。被害者は痛いと言ったと思ったら腕を抱えたままうずくまった。出血はおびただしい。たいていが手術のうえ入院となった。しかし被害者は誰一人として犯人を見ていない。かまいたちのような、突然見えない刃物が指を持っていったのだ。被害者は老若も男女も無関係だが指輪をつけるのは女性が多く、自然女性の被害者が多かった。女性はパニックになった。
「あなた、指輪外してないの?」
「それが、あたし太っちゃって指輪なかなか外れないのよ」
「リングカッターがあればできるのよ、そういうのって」
「なんとかカッターって、どこにあるの?」
 結婚指輪をつけている男性も多い。
「あなた、太ったから指輪は抜けないんじゃない?」
「だいじょうぶ。暴漢が襲ってきたら反撃するよ。柔道高段者なんだからね」 
 柔道高段者だった彼も犠牲になった。知らないうちに左手薬指はなくなっていた。最も悲惨な例は、色ガラスの模造指輪をつけていた女の子の指がなくなったことだった。子どもを持つ親は全てパニックに陥った。学校も模造指輪は全て禁止して、残っている模造指輪は全て焼却した。
 指を切断された女性の住んでいた近くで、ナイフを所持していた男が捕まった。当初、本人は否定していたし切断された指も指輪も発見されなかったが、結果的に自供した。マスコミは犯人ついに自供と、センセーショナルに報道した。多くの女性は安堵した、これでまた指輪がつけられると。女性たちの指に指輪が戻り始めたころ、また事件が起こった。
「犯人は刑務所出たのかしら」
「また町をうろついてるのね」
 ところが男は服役していた。犯人は他にいたのである。恐ろしい話であるが、警察は間違った犯人を捕まえたのだ。また女性たちにパニックが戻った。
「ところで、指輪はどこへ行ったんろうね」
「そうなんだよ。切断犯人の目的は指輪じゃなかったのかと」
 警察は、指切断という重大事件に捕らわれていたが、犯人の本当の目的は指輪でないのではと人々は思い始めていた。だとするとこれまで指とともに消え去った指輪はどこへ行ってしまったのか。
 なくなった指輪の調査が行われた。宝飾品店が名乗りをあげ、なくなった指輪に特殊性や傾向があるかどうかが調べられた。その結果、なくなった指輪は結婚指輪と結婚を記念した指輪が多かったのである。
「結婚指輪だったんだ」
「結婚指輪を切断するどんな理由があるんだろうか」 
 被害者に、指を切断されず指輪がなくなった人がいることがわかった。
「どこかに置き忘れたと思ったんですけど、よく考えるとあの時じゃなかったかと思うんですよ」
「あの時とは?」
「お葬式に出たとき、たまたま指輪を外して置いといたんです。その時に誰かが持って行ってしまったんです」
 被害者は、事件のとき顔は見えないが黒い塊が自分を傍に来ていたと証言した。
「黒い塊ねえ…」
 宝飾品店が一計を案じた。結婚指輪やその類を大きく広げて並べて、なくなるかどうかを調べた。その結果、なくなった指輪はなかった。
「指輪が目的じゃないのかな」
「もっと高い指輪が欲しいとか?」
「聞き取り調査した限り、価格じゃないよ。模造指輪も盗られているんだから」
 不思議な現象が起こっていた。切断された指が戻ってきたのだ。切断事件で指を失った被害者の指が回復した。模造指輪を指ごとなくした小さな女の子に指が戻った。指を折ったり伸ばしたりして嬉しそうにしていた女の子を母親が見た。
「ユリちゃん、あなたそれ…指が戻ったの?」
 女の子はニコニコして指をかざした。
「パパ、ユリちゃんの指が戻ったのよ!」
 女の子を抱きかかえて涙ぐむ母親がテレビに放映された。そして、少しずつ切断された指が戻ったという被害者現れた。ほとんどは女性、その感激といったらなかった。家族とともに抱き合って泣いた。しかし、医学関係者は首を傾げた。
「イモリじゃないんだから、切断された指がまた生えてくるというのは信じがたい」
「なくなったことより、また生えてきたということのほうが信じられないよね」
 戻ってきた指は、今度の事件で指を失った場合だけだった。他の事故による切断で指や四肢が回復するということはなかった。医学界もお手上げの状態だった。
 警察は、切断事件が起こった時の詳細を調べていた。
「黒い影を見たことは伺いました。ほかに気付いたことはありませんか? どんなことでもいいんです」
「そうですね、ニオイを感じました」
「どんなニオイですか?」
「…火山で湯気がでているところがありますね、そんなニオイが…」
「硫黄ですか?」
「そうです、硫黄のニオイです」
 火山といっても日本にはたくさんあり、捜査員は考えあぐねていたとき、思わぬ情報が舞い込んできた。
「切断された指の指輪じゃないかって?」
 指切断事件で戻ってきた指もあるが、指輪はまだ一つも発見されていなかった。
「どこにあったんだ?」
「墓です」
「墓?」
「どこの墓だ?」
 墓は九州南部の人里離れた地にあった。この地方はまだ土葬が行われており、しかも何年かに一度埋め直しが行われる。遺骸は白骨化しており、その白骨化した遺骸と副葬品を掘り出してときに副葬品にまだ新しい結婚指輪が含まれていた。そして埋葬されていた人物は過去帳から女性であったことがわかった。
「かすかに硫黄のニオイがするね」
「彼女たちだったんですか? 指切断の犯人は。結婚指輪が欲しかったんでしょうかね」
「かもしれないね」
 指輪が残されていた遺骸は、指が一本なかった。
(了)



posted by 田畑稔 at 15:18| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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