2019年11月07日

「フォークリフト」作・田畑稔(no.0138.2019.11.07)

 倉庫のフロアをフォークリフトが走っていた。
 フォークリフトが縦横無尽に何台も走る図は壮観である。しかもそれらのフォークリフトは無人。フォークリフトに運転手が乗ってないのである。AIがフォークリフトに搭載される時代になって流通業界は大きく変わった。まずなにより運転手がいないのだから疲れない、基本24時間の操業が可能だ。そしてフォークリフトのスピードは増した。運転手が乗っていないぶん軽いこともあるかもしれないし、人間の運転手なら数センチ単位で前後に移動し数センチ単位でリフトを上げ下げできるのが、それぞれ数ミリ単位に変えられるのだ。
 しかもフォークリフトに充電する充電器までAI対応なのである。フォークリフトは電気が減ると充電器が自動で通信を受けて走りながらフォークリフトに充電する。フォークリフトは故障でもしない限り走りっぱなしなのである。
 倉庫担当者が話し合っていた。
「やはりAIフォークリフトは速いね」
「無駄がないよね。最短距離を走ってる」
「速く走るだけじゃない。荷物の取り扱いが日増しに速くなってる。学習するんだよAIは」
 担当者は数字が書いてある書類を取り出した。
「貨物の出荷率が日ごとに改善している、貨物量と取り扱い時間が短くなってるんだ」
「カイゼンか、さすがAIだ。たいしたものだね」
 フォークリフトは走り回るものの、ほぼ無人となった倉庫が不用心ではないかと思う者がいた。それは当然のことだった。ある男が窃盗を試みたのである。男は倉庫の元職員だった。倉庫の事情はよく知っており、容易に倉庫に侵入し陳列棚に接近して商品をかすめ取った。だから防犯カメラを欺いたと思ったのであるが違った。男が商品を抱えて出ようとした時、男をふさぐようにAIフォークリフトがいた。通り抜けようとしたのだが、その時フォークリフトが突っ込んできて男を釣り上げて床に落とした。このことによりフォークリフトは喝采を浴びた。フォークリフトにそんな芸もあったのかといわれた。
 だが二度目の事件の時は少し違った。倉庫の職員が、荷物を忘れたといったん帰社したのに再度倉庫に入った際にフォークリフトに侵入者と判定された。その職員はフォークリフトに突き飛ばされ重傷を負った。
「そもそも、AIフォークリフトに侵入者を識別できる能力があるというのが驚きだね」
「そういうプログラムはどの段階で入っていたんだ?」
「フォークリフトのAIのプログラムには、侵入者に対応するプログラムなど入ってないって話だ」
「じゃどうして?」
「AIの自己学習能力ってやつらしい」
「そうなの? でもすごいね」
 三度目の事件が起こった時は反発も多かった。倉庫の自動化システムの評判を聞きつけた同業他社が見学に来た時だった。その倉庫の職員は当然のことながらIDカードを持っていなかったが、AIフォークリフトはその人物を侵入者と判断しフォークリフトのフォークで突き、ホームから落とした。見学者は救急車で緊急搬送されるほどの重傷を負った。
「どこのAIだろうと、人間を傷つけたりはしないようになってるんじゃなかったっけ?」
「侵入者を見つけて排除するというのはいいが、こう傷害事件が起こってはねえ」
「侵入者を排除する部分をもう少し緩くできないのかな。たとえばネジ一本緩めるとか」
「AIに対抗するのにネジ締める?」
「24時間操業なのにネジを緩めたりなんかできるわけない」
「そうだよね」
 AIフォークリフトに誤作動が目立つようになった。フォークリフトが前に進むべきところを後退したり、上がるはずのリフトが下がったり、フル稼働しているはずのAIフォークリフトが勝手に休憩ゾーンに入ってしまったりした。
「こういう故障はありえないんだ」
「どうして?」
「AIの自己学習能力は失敗をしてもそれを経験として積み上げていくようになっている」
「じゃどうして?」
「じゃあこれを見て」
 AIフォークリフトのを稼働率調査だった。
「最近のAIフォークリフトの稼働率が向上しないどころか一部には低減も見られるようになったんだ」
「AIは失敗も学習している。失敗が増えるということはAIとしておかしい」
「じゃどう考えればいいんだろ」
「AIフォークリフトが意図的に失敗しているということになる。つまりサボりだ」
「AIが意図的にサボってるっというの?」
 倉庫にベテランのフォークリフト運転手がやってきた。AIフォークリフトが意味のわからない動きをするので従来型の人間による運転に戻そうということになった。ただAIフォークリフトによって解雇されてしまったベテラン運転手は転職しており、空き要員は容易にみつからなかった。それでも一人だけ、戻ってきた運転手がいた。彼は快く引き受け再びフォークリフトに乗った。昼休みに男は倉庫担当者に感想を述べた。
「AIフォークリフトの動き見ててわかりましたよ」
「何がわかったんですか?」
「AIフォークリフトの動きって、あれは師匠の動き、それをベースに組み立てられていますね」
「どういうことですか?」
 運転手の話によると、AIフォークリフトの動きはある運転手のテクニックを模倣して作られてAIにより進化していった。それは師匠と呼ばれみんなから尊敬をうけていた運転手の神業のような伝説的フォークリフトの動きが元になった。AIフォークリフトは師匠のテクニックから発展して行ったという。
「ではその師匠に戻ってもらったらいいんですね?」 
「師匠はAIフォークリフトの導入が決まったとき解雇されました。師匠はフォークリフトが運転できなくなったら自分は生きていてもしょうがないといい、すぐに亡くなってしまいました」
 運転手が昼休みを終えてフォークリフトを動かそうとした時、物陰から出て行くものがあった。AI充電器である。AI充電器は充電しておいてくれたのかとフォークリフトのスイッチを入れたが、フォークリフトは動かなかった。
「フォークリフトが壊れたって? いったいどうしたんですか」
「バッテリーの液が抜かれ、極板が焼き付いてます」
「どうしてそうなっちゃうんですか?」
「AI充電器の仕業です。さっき陰で動いているところを見たんです」
 倉庫は再びAIフォークリフトのみが動き回っていた。だが、トラック運転手は違った証言をした。荷物を降ろすためにトラックを倉庫に付けると、いつもはせわしなくフロアを動き回ってるAIフォークリフトが倉庫の奥にまとまって止まっていた。AIフォークリフトはもう仕事をせずどこかへ運ぶのかなと思った直後だった。AIフォークリフト周辺から火が上がった。消防が駆け付けたが間に合わず、AIフォークリフトはたくさんの商品とともに全て消失してしまった。
(了)




posted by 田畑稔 at 11:13| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする