2019年11月05日

「姉妹都市」作・田畑稔(no.0136.2019.11.05)

 町は姉妹都市提携を結んだ。
 大いに歓迎された。町の名は広まるだろうとか、やっとこれで一人前の町になったとも言われた。町には、祝姉妹都市提携という看板が掲げられ、ポールが立てられ、窓や部屋にシールが貼られ、子供たちは下敷きをそろえた。商店街は姉妹都市提携饅頭を作り、その類のお土産を製造した。学校でも姉妹都市提携を指導し祝い、さっそく給食にも姉妹都市提携を記念するオムレツが子供たちに配られた。それはオムレツにケチャップで文字を書いただけのものだったが、今どきである。写真がネットで拡散されあっという間に事は大きくなった。
 ちょうちん行列をやろうと提案したのは、そもそも姉妹都市の話を持ってきた町長の側近だといわれた。スローガンは「全町民を挙げて」だった。全町民が祝姉妹都市提携と書かれたちょうちんをぶら下げて夕暮れの町を練り歩こうというのだった。この際、新聞にも広告記事を載せてもらい、テレビにも取材をお願いする。できればローカルニュースとして放映してもらいたいという企画だった。町を空にしたら危険だろうという意見もあったが大きく取り上げられることはなく、スケジュールは進行していった。
「どこの町と姉妹になるの?」
 町の小学生から素朴な疑問が出されたが、大人たちはその答えを用意していなかった。ちょうちん行列の準備に忙しくそれどころではなかった。
「どこの町と姉妹になるかだって、知ってる?」
「聞いてないけど」
「あたしも」
「今忙しいのでそのうちね」 
 大人は誰も答えられないどころかそれを問題にもしないという姿勢だった。
「姉妹都市を提携する町は全国で1000何百もある。なかには小さな町もある。そこはあまり気にしなくていいんじゃないかな?」
 教師はそう答えた。またある教師は姉妹都市を提携する子供たちの気概を言った。
「とにかく、まず姉妹都市があるんだ。そのことに集中して取り組もうよ」
 こんな調子だった。だが、子供の抱いた疑問と同様のレベルで考える大人もいたのである。
「どこと姉妹都市提携するか、いまだに公表されてないよね」
「あまり大きな声で言えないんだけど、姉妹都市の提携先はないんじゃないかというんだ」
「ないの?」
「誰も聞いたことがない、契約書類みたいなものもないらしい」
「そもそも誰が言い出したんだ?」
「町長の側近という噂だ」
「側近て誰? 町役場の誰か?」
「わからない」
 姉妹都市に対する疑問も大きくなってきたが同時にその反対の声は大きかった。姉妹都市がどこであるかはそう大きな問題ではないとか、姉妹都市の名を下手に公表して姉妹都市提携がダメになりかねないとか、この町の未来の子供たちのためにも姉妹都市は公表すべきでないなどといわれた。
「しかし姉妹都市提携が嘘だとしたら?」
 姉妹都市に否定的な大人たちは言った。
「この話には町は予算も計上してるし、民間も団子だとか出荷している。おカネも動いてることは間違いない。てことは…」
「詐欺? 姉妹都市提携を持ち込んだ詐欺ってこと?」
「可能性はあるね」
 姉妹都市提携に否定的な町民は増え、肯定的な町民と感情的な対立が激しくなってきた時だった。姉妹都市契約書なる書類が現れたのだ。いわゆる肯定派は喜んだ。
「ほら、あるじゃないか」
「心配し過ぎなんだよ」
 だが否定派はさらに疑問が深まったのだ。
「今ごろになって出て来ることがおかしい。誰かが造ったんじゃないのか」
「それで、姉妹都市はどこなんだ?」
「それがまだ書かれてない」
「おかしいよ。しっかり調べないと」
 否定派の住人は姉妹都市契約書を送り先を確認した。これが姉妹都市提携のエージェントらしかった。さっそく問い合わせたが不在、手紙も差出人不明で戻って来るし何度電話をかけても同じだった。エージェントが実在するかどうかさえ怪しくなった。
「これでわかった。姉妹都市提携なんて誰かの作り話だ」
「町長の側近というのも怪しい。町長自体がそんなもん知らないといっているらしいからね」
 否定派の町民が帰ると意外な報告を受けた。
「督促がきたって?」
 姉妹都市提携の細かな約束を結ぶための書類が届いていた。
「だって姉妹都市提携のエージェントなんて存在してないんじゃないか」
「しかも、もう手数料を払ったらしい」
「手数料? なんでそんなもの払う必要がある」
「姉妹都市がここまで進んでいるのにやめたくないということらしい」
「そんなバカな。で、提携する都市はどこなんだって」
「まだ不明らしい」
 そして姉妹都市提携は期日までに手続きしないと姉妹都市は解消になると記されていた。
「姉妹都市の手続きっていつまでなんだ?」
「期日が迫っているとある。そんなに早くはできない、今まで払ったカネは戻してもらえるのか?」
 否定派は一つ思い出したことがあった。
「町長の側近というのがいただろ。それはどうしたんだ。そもそも側近がこの話を持ってきたんだろ?」
 否定派は町長側近を探した。だがいなかった。
「町長に聞こう!」
 否定派は町長室に飛び込もうとしたら、遮られた。肯定派ががっちりと腕を組み町長室に入らせなかった。
「町長に合わせろ!」
「町長は不在です!「」
 両派の殴り合いに至ろうとしたその時、姉妹都市提携エージェントから連絡が届いた。予想された通り、時間切れにより姉妹提携は解消されたとあった。
(了)

posted by 田畑稔 at 09:57| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする