2019年06月30日

「腕時計」作・田畑稔(no.0008.2019.06.30)

 腕時計が発売された。
 最新の機能、最新のデザイン。それを先着で贈呈するという。
 殺到するのは当然である。
 ただこの腕時計には欠点が一つあった。ベルトが外れないのである。
 誰かがベルトを切って捨てようとしたが不可能だった。どんなカッターでもナイフでも叶わなかった。
 ある男は時計そのものを破壊しようとしたが、硬くて頑丈で腕時計はびくともしなかった。
 だが人々は製品に満足する者がほとんどで、腕時計を外そうとはしなかった。
 そして先着に贈呈するといっていたシステムも、制限がないかのような大盤振る舞い。希望者全員に最新の腕時計が贈呈されたようだった。
「なぜこんなにもらえちゃうんだ?」
 一部には、なぜこのような高額商品が大量に贈呈されるのか疑問を持つものもいた。当然、代償があるのではないかと考えた。時計のメーカーはどこか、販売者は誰かを探ったが最後まで突き止められなかった。しかもその人物は行方がわからなくなってしまった。
 しばらくすると人々の腕時計が外れなくなってしまったどころか、時計とベルトが皮膚に食い込み徐々に腕時計が皮膚に癒着して腕に埋没してしまっていた。だが痛いとか締め付けられるとかはなかった。むしろ人々は腕時計に快感を感じていたため、腕時計を外そうとはしなかった。
 腕時計は埋没し、人々の腕から消えてしまって完全に体内に溶け込んだとき、眼前に腕時計が見えた。時刻は午前零時数秒前だった。
 そして時計が進み零時になったとき腕時計を持つ者の眼前に閃光が走った。腕時計もろとも消失した。
 次々と人々は消えていき、生き残ったのは子供や腕時計の習慣のない一部の者だけだった。
 そして結局人口の大半が消失してしまった。
 人口半減。
 どこかでプランを策定したプランナーの目的がそれだったのだろう。
 人々がおおよそのプランに気が付いたとき、巨大なUFO の飛行があったが、プランとの関係は誰にも理解できなかった。
(了)







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2019年06月29日

「ナマズ」作・田畑稔(no.0007.2019.06.29)

 雨。
 音も静かに降り続ける梅雨の只中、庭木や手入れの行き届いた植木を静かに濡らす。
 庵の、張り替えたばかりの畳表の香りも芳しい。
 主は庵でナマズを飼っている。庵の主が以前に譲り受けたもの、いつ生をうけたのかも定かでない、長生きであることは確かなナマズだった。
 庵は常に静謐である。主は常にナマズに気を配っている。ナマズの声を聞くために。
 庵のナマズはしゃべるのである。庵の主人にとってはナマズとの会話はこの上ない楽しみである。
「ナマズよ。きょうもご機嫌かい?」
 問いかけるとナマズは大きく横に裂けた口をわずかに開けつつ、申し訳程度のかすかな声を出すのである。
「梅雨が鬱陶しいね」
 ナマズは言う。
「水に住むお前でも梅雨は鬱陶しいかね」
 ナマズは笑わせてくれる。箕笠も濡れるだろううんぬんの話をしているから、ナマズよ箕傘の時代から生きているとでもいうのかと呆れたものだ。
 いや、もしかしたらそうかもしれない。ナマズがしゃべるのはよほど長生きをしてからでなければ無理だろう、おそらく自分より生きて知恵もあるのかもしれないと庵の主は思った。
「ナマズよ。なんかおかしくないか?」
 最近、ナマズの態度がおかしい、よそよそしいのだ。
 聞くと、どうやら好きな女ができたらしい。
「それはメスのナマズなのかい?」
 ナマズは黙っていた。
「へー。ま、言いにくい話ではあるよな」
 庵の主は冷やかした。
 しかし、桶で一匹で暮らしているナマズが他と知り合ったりましてメスとの出会いなどどうしてあるのだろう。
 少し意地悪な質問をした。
「ナマズよ。桶にこもり切りも退屈だろう。可愛いメスのナマズがたくさんいるところに連れてってあげようかい?」
 ナマズは冷たい反応だった。庵の主はナマズが明らかに自分を悪しざまにしたことに気付いた。
 庵の主は、長年可愛がったナマズが急に憎たらしく許せなくなった。
「ナマズよ。お前の彼女とやらを見せてみろよ。さて広い池に出かけてみようか」
 庵の主はナマズを摘まみ上げようと桶に手を入れた。
 ナマズはこの時を待っていた。背中に力を入れ鋭い背びれを突き立てた。庵の主は尖った背びれを手のひらに深々と刺し致命傷の毒をナマズからもらい受けてしまった。
 主の不在になった庵に残ったナマズは、一仕事を終えた充実感を抱き、新しい飼い主に思いを巡らせていた。
 そして、しゃべれるナマズの噂はすぐにひろまり、ナマズは新しい住処に居を移した。
(了)

 
 


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2019年06月28日

「八百比丘尼」作・田畑稔(no.0006.2019.06.28)

 「心当たりある?」
 男はそろそろ疲れ果ててきていた。
 男は八百比丘尼を探して長い時間を要した。北陸の小さな町にまだいると聞き、長い時間捜索を続けた。
「知ってるわよ。八百比丘尼でしょ。この町でなら大抵知ってるわよ」
 場末のストリップ劇場の楽屋である。男はとにかく風俗の職場を中心に訪ね歩いた。
「知ってるの? まさか八百比丘尼を知ってる?」
「知ってるも何もあたしがそうよ。あたしが八百比丘尼」
 男は目を丸くした。
「本当か? 本当に八百比丘尼なのか?」
 踊り子嬢は立腹。
「本当だったらどうするわけ? ストリップ劇場の楽屋に上がり込んでなんの用?」
 男には急がなければならない理由があった。800年生きるといわれる八百比丘尼の長生きの理由だ。男は不治の病でいくばくもないのだ。少しでも長く生きたい。その思いが不躾な行動に出るのである。
「お嬢さん、人魚の肉は、食べてないよね?」
「食べたわよー」
 踊り子嬢はあかんべーをした。
「そうかやっぱり食べたんだ。人魚の肉は残ってない?」
 八百比丘尼は人魚の肉を食べて長命を得たといわれている。
「人魚なんて日本にいるわけないじゃん。バーカバーカ」
「お願いだ。教えてくれ」
 男は踊り子嬢の腕をつかんだ。
「教えてくれないなら他の方法だ。悪いけど、人魚の肉が食えないと八百比丘尼を食わなきゃならん」
「キャーッ!」
 踊り子嬢は悲鳴をあげた。男は短刀を握りしめていた。
「やめて!あたしはなんでもない。八百比丘尼でもなんでもない。ただの女よ。やめて!」
「命までいただかない。肉を、一片いただくだけだ」
 男は青白い顔をして踊り子嬢に迫った。
「誰かー!助けてー!この男おかしいよ!」
 踊り子嬢は泣き叫んだ。
「おい!いいかげんにしないか!」
 恰幅のいい男が後ろにいた。
「なんだおまえは。用はない。帰れ!」
「八百比丘尼でも?」
「なんだと?」
 男は目を丸くした。
「お前が八百比丘尼だと?」
「そうだ。八百比丘尼は男なんだ。悪いね」
 その時、恰幅のいい男の太い腕が男の顔面を強打し後頭部に手刀を下ろした。男はこん倒した。
「ねえさん。だいじょうぶですか?」
 劇場の雑用係の恰幅のいい男が言った。踊り子嬢は怯えながらも恰幅のいい男に尋ねた。
「兄さん、八百比丘尼なの?」
「まさかとお思いでしょうが、八百比丘尼です。みんな女だと思ってるでしょう。だから長年隠れられたんですけどね」
(了)


posted by 田畑稔 at 09:50| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする